ドラマ「天国と地獄」最終回のあとにも残る疑問 なぜ陸は彩子の前から姿を消してしまったのか?

今週の日曜でついに最終回を迎えた天国と地獄。
事件の真相とともにそれぞれ立場やその後までも描かれていて、最後にまた入れ替わりが起きてしまったことをのぞけばそれぞれの思いが届いた概ねハッピーエンドと言えるのではないでしょうか。ただ一人をのぞいて…

そうただ一人とは最後に彩子の前から姿を消してしまった陸のこと。いつものようにフラッと立ち去ってそのまま帰って来なかった何とも陸らしい最後に寂しさをおぼえた人も多かったのでしょう。

ネットでもそのことが話題になっていたようでいくつか陸が姿を消した理由のことを書いた記事を読みましたが、恋愛感情や日高への嫉妬との見方をしている意見が多かったことに驚いている。

「天国と地獄」、絶賛された最終回、陸はなぜ望月彩子の前から姿を消したのか

むろんそれが正解じゃない!とは言い切れないが、もう一度物語をじっくりと見ていけば陸のセリフや行動に違いが意味合いがきっと見えてくると思います。なので、陸の行動が気になっている方や日高への嫉妬説に納得いってない方はぜひ読んでみてください。

 

まずは簡単に最終回のストーリーを振り返り

船の上で河原に逮捕された日高と彩子。その後の取り調べで3件の殺人はすべて自分一人の単独犯だと主張する日高。河原からの取り調べに対しても何の矛盾もなく答えてみせる。
一方日高の供述が自分の立場を守ろうとしているからだと分かっている彩子は、日高ではなく東朔也の犯行を裏付けられる証拠を捜しに奔走する。
そんな時証拠品の中に田所の玄関の防犯カメラの映像をおさめたSDカードがまだ押収されていないことに気づく。彩子は東がSDカードを持っていなかったか陸に聞いてみるが、すでにSDカードを拾っていた陸は「知らない」と嘘をつく。
最後に警視庁に送られてきたSDカードの中の映像、東朔也による犯行の自白を映した動画が決め手になり、日高の供述は崩れ殺人はすべて東朔也の犯行であることが立証された。

というお話です。前半部分でポイントになるのが
 ○彩子が日高の冤罪を晴らすために一生懸命なこと
 ○陸がSDカードのことを知らないと嘘をついたこと

この2点です。

まず冒頭での彩子と陸の電話での会話。
「日高 日高すごいねぇ」
どうもこのセリフが「日高のことばっかりそんなに気にして」という意味にとられたことが陸の嫉妬説につながっているようです。
ですが陸は東朔也の犯行できまりと思ってて、彩子は警察内部で東朔也と日高とどちらが主犯とされるか分からないという焦りが伝わっていない。確かに日高に対しての皮肉交じりの嫉妬も入ってるかもしれないが、どちらかというと「相変わらず彩子ちゃんは一生懸命だねぇ」という意味合いに近いセリフだと思われる。

それから日高が自分の犯行だと自供したことで彩子はさらに焦る。
このまま日高が送致されればまず有罪(99.9%)で極刑。彩子のこともかばおうとするためにやってもいない罪で自ら濡れ衣を着せられようとしている。それは彩子の正義感からすれば絶対に許されないこと。
しかしかと言って彩子も危うい。一度は疑いから逃れたが、四方の死体を打ちつけている動画など、彩子も事件に関与しているという決定的な証拠が見つかってしまえばアウトだ。それにすべてぶちまければいいと思う人もいるかもしれない。確かにこの世界では八巻に陸に五木さんと入れ替わりを信じてくれた人が3人もいた。しかし警察の取り調べや裁判でそれを立証するとなるとそれはまず無理だろう。
そして河原の存在。この時はまだ彩子は河原の真意を知らないのだから、事実に蓋をしてさっさと日高を犯人として送致しようとしているように見えている。そのタイムリミットが迫っている中で送致されるよりも先に東朔也の犯行を裏付ける証拠を見つけなければならないのだ。

 

それで彩子は東がSDカードを持っていなかったかその僅かな希にかけ陸に電話をする。
「陸、東がSDカード持ってるの見たことない?」
「日高、3人とも自分が殺しちゃったって自供しちゃったのよ」
「えっ?なんで…そんなやってもいないこと言ってるの」
「日高、わたしのこと守ってんの。捜査続行して変なことが出てこないように、犯人になろうとしてるの」
(船の中で彩子を守ろうとする日高を回想する陸)
「…SDカードは見たことないなぁ」

これ、彩子が日高を無罪にするために一生懸命になってるのを感じ日高に嫉妬して嘘をついたと思われているようだがたぶん違う。

その理由はその前のシーンにある
陸はSDカードの中を見ようと電気屋さんへ。SDカードを読み取る機械を買おうとするときのセリフ
「俺は彩子ちゃんを守るために生まれてきた」
この時、師匠のプライベートをのぞき見するのは悪いと思いながらも、もし中に彩子ちゃんを守れる証拠があればそれは容赦なく使おうという決意があったと思われる。

つまりSDカードがなかったと嘘をついたのもそれが彩子に不利になるものかもしれないと勘づいたから。彩子ちゃんを守るためにはSDカードは出さない方がいいと瞬時に判断をしたのだろう。
陸もまた日高と同様に
彩子を守るために真実に蓋をしようとしたのだ

 

しかし最終的に陸は匿名というかたちでSDカードを警察へ提出する。
それは彩子を守るために師匠の最後の願いを踏みにじっていることに気が付いたから。

遺体を引き取りにきた日高の父に最後に立ち会っていた時のことを話す。
「朔也くんがお世話をかけました」
「いえ…むしろそこに居られてよかったです」
「よかった…?」
「師匠がなんかやらかしてるんじゃないかって感じてて…あ、でも最後に、日高さんと女刑事が乗り込んできて…」
「その女刑事さんに師匠、全部おれが悪いんだ、おれがやったことにしてくれって……」
師匠の最後の言葉を思い出す陸
『おれはどういう殺された方されてもいいから、こいつだけは守って…』

「…最後は、そう願って……おれ何やってんだよ」
ここで陸はポケットからSDカードを取り出し何かを決意したような表情になる。

ここでの陸の行動理念はおそらく河原と同じだったのでしょう。
「あんまりにも兄がみじめで可哀想だったので」
「じゃあなぜまた奪う!
 この殺人は、お兄ちゃんの声じゃないのか?
 立場の弱い人間がいかにたやすく奪われ続けるか
 そして立場の強い奴らも最後はこういう風に自らが奪われることにもなる
 そんなことが言いたかったんじゃないのか!
 やってることは人殺しだ
 汚ねぇしゃがれた聞くに堪えない声だ!
 でも!それでも…声は声だ!
 お前にそれを奪う正義はあるのか

これは河原の日高へのセリフだが、陸もまた気が付いた。
警察という彩子もまた強者。強者を守ろうとする者のために師匠の声を最後の願いをなきものにする。それはまるで田所たちが師匠を存在しないもののように扱ったのと同じようなことをしている。一見すれば連続殺人の罪を着せないのだから師匠のためになってるとも思える。しかしそれは師匠の望んだことではない。師匠はこの殺人をどれだけ世間から憎まれても世間から罵られても、世の中にはこんな酷い奴らがいると社会の掃除人として世に問いたい、とそう思っていた。

陸は最終的に彩子ちゃんが警察を追われることになっても、この師匠の殺人を世に知らしめる、酷い殺人をしたという真実を明るみに出すことで最後の師匠の願いを聞き届けてあげようとそう決意をしたのでしょう。

最後に陸が彩子のもとを去ったのは、やはり彩子ちゃんを守ると言っておきながら師匠の願いを聞き届けることを優先させたこと、その自責の念が大きいと思います。ただこのシーンには余白があり、他にもいくつか陸の心情を察することもできそうです。
もしかすると陸は本当の意味で彩子を守れるほど自分は強くないと思ったのかもしれない。彩子を守るのにふさわしい強い人間になるために彩子のもとを離れたと想像することもできそうです。

さらに師匠の生き方(死に様)に感化された可能性もある。
東朔也のように自分の思うように生きたくても生きれない人たちがいる。そういう人のためには自分の人生を一生懸命に生きる責任が自分にはあると考えさせられたのではないだろうか。こんな風に女の家に転がり込んでフラフラと生きていけはいけないんだと、自分を改めどこかでやり直そうと出て行ったようにも思えるのだ。

ともかくこのドラマでの陸の最後には不思議な哀愁があり、彩子にも東朔也にも近い人間としてキーパーソンになっていたと改めて思わされた。
そして1話から彩子は陸を追い出そうとしていたのだから仕方ないのだが、まったく陸がいなくなってもまるでノーダメージのようにサバサバと暮らし続ける彩子を見るとまたそこにもの悲しさを感じてしまうのだった。

 

 

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